著作権譲渡契約に強く反対している理由を詳細に説明させていただきます。
1.イラストレーション料金は制作労力への対価ではなく、作品の使用料に過ぎない。したがって、一度著作権を譲渡してしまえば、今後その作品を使用する際に発生する使用料収入を永久に失うことになる。
2.出版物やドラマ、映画化などの場合、著作権を譲渡すれば出版社やプロダクションがあらゆるメディアで自由に使用できるようになり、多額の機会損失が生じる可能性がある。例えば雑誌の小説挿絵1点で著作権を3万円で譲渡した場合、その後の書籍化や映像化での使用料(10万円以上)を失うため、損害額は100万円を軽く超えてしまう。
3.広告の場合、著作権を譲渡すれば競合他社の広告でもイラストが勝手に使われてしまう(バッティングの危険)。企業が事業を拡大したり著作権を転売したりすれば、あらゆる業種の広告でバッティングが発生する可能性がある。具体例として、洗剤会社に20万円で著作権を譲渡した場合、その後の人生で数百万円以上の洗剤関連の仕事を失う恐れがある。
4.企業が化粧品や食品などの新規事業に進出した場合、イラストレーターが関係する別の企業の広告とバッティングするリスクが生じる。また、経営方針の変更や企業買収時にも、著作権の扱いが変わるリスクがある。
5.企業が著作権を譲渡された大量のイラストをストック素材事業に使われれば、イラストレーターはその作品を全く管理できなくなってしまう。
6.一度著作権を譲渡してしまえば、イラストレーターは様々な分野での活動が著しく制限され、思わぬところから巨額の賠償金請求などの深刻なリスクを抱えることになる。
7.著作権譲渡契約は、企業のみが一方的に利益を得て、イラストレーターに過大な犠牲を強いる極めて不公正な契約であると指摘している。コンプライアンスの観点からも問題があるとの指摘がある。
8.イラストレーターの権利を守りつつ、クライアントにもメリットがある双方にとって適切な解決策を求めている。長い歴史を持つ日本の大衆文化を守る観点からも、著作権譲渡契約には原則反対の立場を鮮明にしている。
このように、著作権を一旦譲渡してしまえば、イラストレーターに過酷なリスクと多大な機会損失が生じる可能性が高いため、団体はより公正な代替案を求めており、日本の大衆文化保護の視点からも反対の立場を貫きます。
一方で企業側も、以下のような理由から著作権譲渡を求める場合があると思います。
1)様々な媒体で使う可能性があるため
企業はさまざまな媒体でイラストを使用する可能性があり、新しい媒体が今後も次々と登場するかもしれない。そのたびにイラストレーターに使用許諾を取るのは非効率的である。
2)使用期間が不明なため
広告やキャンペーンなどで長期間使うかもしれないが、いつまで使うかわからないケースが多い。そのため、とりあえず永久的に著作権を譲渡しておこうというニーズがある。特に地方の支店などでは、使用期限を過ぎてもポスターが貼り続けられるリスクもある。
3)社内での無断使用を防ぎ、訴訟リスクを回避するため
企業内部で著作権に対する意識が低い場合、無神経な社員が勝手にイラストを無断で流用して訴えられる可能性がある。そのリスクを回避するため、あらかじめ著作権を譲渡しておきたいというニーズが生まれる。
このようなイラストレーター側と企業側のニーズの対立に対し、以下のような対応策を提案させていただきます。
1)「全媒体使用許諾契約」や「年契約」などの代替方式を活用する。
様々な媒体で使う場合は、”全媒体使用許諾”という契約を結べばよい。一度の比較的高額な報酬で、新しい媒体が次々に加わっても追加の許諾は不要になる。
また、使用期間が不明な場合は、年ごとに更新料を支払う”年契約”を結べば長期使用が可能になる。その際、ポスターには使用期限を明記し、期限が来たら剥がすよう各支店に指示を出せば、無期限使用のリスクは低減できる。
2)社内教育と知的財産管理部門の設置などにより、無断使用を防ぐ
企業内で著作権に関する教育を徹底し、知的財産部門など専門部署を設けることで、社内の無断使用を防ぐことができる。強行な著作権譲渡は下請法や独占禁止法に抵触する恐れもあり、訴訟リスクを生む可能性もある。
3)特殊な契約方式を用いて、イラストレーターの権利の一部を残しつつ企業の利用範囲を拡大する
完全な著作権譲渡ではなく、イラストレーターの権利をある程度制限しつつ、企業の利用範囲を拡大できるような特殊な契約方式を採用する。イラストレーターには適正な報酬が払われ、作品に対する一定の権利が残される。
企業(あるいは団体や自治体)様にとっての著作権譲渡契約のメリットはそのままに、イラストレーターの権利もしっかり守られます。企業はリスクを低減でき、イラストレーターも長期的な収入を確保できる可能性があります。